なぜこんなことに? 平昌五輪、運営側の問題
真冬の熱き戦いに日本中が酔いしれている。
平昌冬季五輪が開幕し、16日で1週間となる。表彰台に立って満面の笑みを浮かべた選手たちは多くの国民に感動を与えたが、一方でメダル候補といわれながら結果を残せずに涙を浮かべた女子スノーボーダーの姿もあった。だが、悲喜こもごものドラマはまだ終わっていない。ひのき舞台に立つ日本勢の活躍を願い、その一挙一動に今も多くの人たちが固唾(かたず)をのみながら見守っているはずだ。
観戦後、帰宅難民になった人も
ただし、この平昌五輪にはどうしても引っかかるところがある。ホスト国、韓国の大会運営があまりにもずさんでひど過ぎるからだ。のっけからブーイングが飛び出したのは、10日夜のノルディックスキー・ジャンプ男子個人ノーマルヒル決勝。決勝の1本目は午後9時半過ぎに始まったが、秒速5メートルを超える強風が時折吹き荒れ、何度も競技が中断される事態になった。
気温は氷点下10度を下回り、その中で待機させられるハメになった選手たちは係員に毛布でくるまれたり、マッサージを受けたりしながら懸命に冷気から身を守っていた。このような環境下は普通ならば競技どころではなく、順延が妥当だ。
ところが競技は強行され、すべてが終了したのは日付が変わった深夜0時半近くだった。21位に終わった“45歳のレジェンド”葛西紀明も「『こんなの中止でしょう』という感じ」と口にし、珍しく怒りをあらわにしていたほど。観衆も極寒に耐え切れず、競技終了を待たずして逃げるように早々と会場を去っていった。
●アクシデントが発生してしまう危険性
葛西が怒るのも無理はないだろう。悪条件によってコンディションが狂わされた選手はたまったものではなく、下手をすればアクシデントが発生してしまう危険性もあった。
そもそも、このスキージャンプ、ノルディック複合(ジャンプ)競技会場の「アルペンシアスタジアム・アルペンシアスキージャンプセンター」は1年前のプレ大会の開催時から強風に対する強い不満の声が参加選手たちからあがっていたと聞く。
1年前の時点で韓国の大会組織委員会側はすでに強風に関するデータが集まっていたはずなのに対応策を練り切れておらず、本番では結局生かせなかったということになる。待たされる選手への配慮も明らかに欠けていただけに、李煕範(イヒボム)組織委員長を筆頭とした大会組織委員会の考えの甘さにはあきれ返るほかない。
ちなみに平昌は各メディアでも報じられているようにアクセスの面でも不平不満が方々から爆発している。開会式の会場となった平昌オリンピックスタジアム周辺で9日の式終了後、大パニックが発生したというニュースには多くの人が驚かされただろう。午後10時半過ぎに観客が帰路につき始めたものの、最寄り駅の珍富(チンブ)駅へピストン輸送するシャトルバスの本数が極端に少ない上に時間通りに来ないため乗り場付近ではあっという間に長蛇の列ができた。
しかも、会場付近の気温は氷点下10度前後。強風が吹き荒れる極寒地獄の中で待たされた人たちはようやく日付が変わってシャトルバスに乗れたが、珍富駅に着くと終電はすでに終了していたというからシャレにならない。
田舎町のためか、タクシーも30分に1台程度しか来なかったことから残された大半の人は一時絶望感を味わったのではないだろうか。その後、鉄道会社側が珍富駅発の特別列車の運行を決めたので、“帰宅難民”と化した人を何とか乗車させたとはいえ、あり得ない話だ。長い五輪の歴史を振り返ってみても、こんな体たらくは前代未聞と言っていい。
●メダリストに対する冒涜
平昌メディアプレスセンターから各競技場へのメディアシャトルバスもない。取材記者は時に途中で乗り換えながら各会場へ向かわなければならず、相当なストレスをため込んでいる。大会組織委員会側としてはメディア各社に今回の五輪冬季開催を大々的に報じてもらうことで、国際社会に韓国のことをもっとアピールしてほしいという思いもあるに違いない。
それならば、なおさら会場までの直通バスくらいは用意しておかなければならなかったはずだ。海外メディアのある人はこのように言っていた。「韓国側は国内で冬季五輪を開催したことだけで満足し切っているのではないか。だから余分なお金をかけたくなかったのかもしれない」と。
大会前の開幕リハーサルでも同じようなことが起きていた。予定通りにバスが来なかったので、五輪のボランティアスタッフたちが極寒のなかで1時間以上も待たされることに。多くのスタッフは怒りを募らせ、ボイコット騒動を引き起こしているのだ。その余波なのか、大会期間中のボランティアが不足していて、英語を満足に話せる人も少ない。平昌五輪はどこにベクトルが向けられているのか、甚だ疑問である。
メダルの表彰式が終了した後、各国のメダリストを取材できるミックスゾーンでも信じられないことが起きている。ミックスゾーンが吹きっさらしの場所に設置されているので、メダリを手にした選手たちは氷点下の冷たい外気にさいなまれながら、長時間、取材を受けなければならないのだ。
これまでの冬季五輪は、冷え切った選手の体を温めることができる暖房の効いたところにミックスゾーンが設けられてきた。スピードスケートの高木美帆やスキージャンプ女子の高梨沙羅らメダリストたちが極寒と強風に耐え忍びながら、取材を受けている姿は何だか気の毒に思えた。これではまるで勝者に「罰ゲーム」を受けさせているような仕打ちでメダリストに対する冒涜(ぼうとく)だ。
●他人事のように笑ってばかりではダメ
思えば大会期間中にもかかわらず、韓国の文在寅大統領は北朝鮮にばかり目が行き“五輪外交”に振り回されっぱなしだ。平昌五輪開会式に出席した金永南最高人民会議常任委員長を団長とする北朝鮮高官代表団と文大統領が10日、ソウルの大統領府で会談。この代表団のメンバーには金正恩朝鮮労働党委員長の妹、金与正党第一副部長も含まれ、文大統領には親書を携えての訪朝を要請するなど南北融和のムードを高め、圧力を高めている米国から切り離そうと揺さぶりをかけてきた。
この平昌五輪で北朝鮮側は芸術団や美女応援団を次々と派遣し、開会式では両国の代表団が統一旗を掲げて合同入場することも許可。さらにアイスホッケー女子で南北合同チームを結成することを決めたのも米国、そして日本との三国ラインを形成させないがための緻密な切り崩し作戦ではないか、といった指摘もある。
そうした裏を読み切れず北のプリンセス、金党第一副部長に骨抜きにされ、北側の融和路線にあっさりと乗っかってしまっている文大統領には国内からも批判が殺到し始めている。韓国国内で「平昌五輪」ならぬ「平壌五輪」だとやゆされているのは、そのためだ。ホスト国の元首がブレまくっていては、平昌五輪の運営が随所でずさんさを露呈してしまうのもうなずける。
このように書くと、「韓国だから仕方がない」と思われたかもしれないが、他人事のように笑ってばかりもいられない。東京五輪の開催は2年後に迫っている。不平不満が続出している平昌五輪をしっかりと検証した上で、ホスト国として日本及び大会組織委員会は東京五輪を必ずや成功に導かなければいけない。